★すぐに役立つ実用的な中国語を教えてください
イライラするばかりだった中国語教室をキッパリやめてから2~3ヶ月間、中国語の勉強はあきらめていました。でも、日々の生活の中で、やっぱり少し話せないと不便です。ものをたずねたり、依頼したり、仕事でも日常生活でも中国語を使えないと不便なことが多いのです。
道を尋ねたり、買い物をしたり、会社で女子社員にファックスやコピーを頼む時にどう言えばよいのか。私には切実な問題でした。
私には通訳がついていましたが、こんなことまで通訳に頼むのは心苦しい。
電話のやり取りも苦痛でした。取引先の日本語のできる相手に電話をかけるにしても、大きな会社の場合、まず中国語で相手を呼んでもらわなければなりません。
そこで、思いついたのが「実用的な会話を教えてもらおう」ということでした。
その時には、これはいいアイデアだと思えました。私はすでに台湾で生活しているのだから、悠長に基礎の基礎から中国語を勉強している暇はないんだ、今すぐ使える会話を覚えるべきだと考えたのです。
さっそく日本語の堪能な女性を紹介してもらいました。
「日経新聞」と「文芸春秋」を読むのが楽しみだという、台湾大学卒業の才媛でした。中華航空のスチュワーデスをやめて、外国人相手に中国語個人レッスンをしていました。なんと彼女は英語もドイツ語もできたのです。
★場面を設定して、想定されるやりとりを覚えこんだが……
彼女は優秀な教師でした。
私以外の日本人や、アメリカ人、ドイツ人にも教えていました。彼らとは月に1~2度、一緒に食事もしましたが、彼女の評判はとてもよかった。もっとも、彼女は飛び切りの美女でしたから、彼らの評価も多少甘かったかもしれませんが、とにかく彼女は教え方が上手でした。
私の意図を飲み込んだ彼女は、会社や日常生活の中でのさまざまな場面を想定して簡単なスキットを作り、教材にしてくれたのです。
たとえば、
「この書類を10部コピーしてくれませんか」
「急ぎますか?」
「いや、明日の会議に使うので、今日中にやっておいていただければいいです」
という具合です。
彼女の優秀な頭脳は、会社生活と日常生活のあらゆる場面を考え出し、次々とスキットを用意してくれました。
それを私は片っ端から覚えてゆきました。これはとても楽しかった。前の日に覚えた会話を、次の日、会社で使ってみる。通じる。中国語をしゃべると、女子社員が今までより親切に対応してくれるような気さえして、さらに暗記に励みました。
街での買い物や、飲食店でのやりとりも覚えました。休日にはよく台湾国内を旅行しましたが、そこでも彼女が教えてくれたセリフが役に立ちました。
私は実用的なパターン会話をしこたま頭にインプットして、とりあえず、日々の用は足せるようになったのです。
★用は足せた、しかし、それ以上の会話はできない
ある日、小さな食堂で夕食をとりました。夜もだいぶ遅い時間で他にお客は男女一組だけでした。
美人教師が教えてくれたセリフを使って注文しました。よく通じました。パターン会話暗記の威力です。
しばらくして注文の料理が出され、私は食べ始めました。
と、カウンターで暇そうにしていた店の主人が、中国語で話しかけてきました。
「あなたは日本人か?」(とても簡単ですね、理解できないほうがおかしい。)
「そうです」と私。
さらに主人は「旅行で来たのか?」
「いや、台湾で仕事をしている」と私。
「どんな仕事か?」「広告を作っている」
主人はさらに突っ込んだ質問をしてきます(よっぽど暇だったんだ)。
「その会社は台湾の会社か?」
「いや、日本の会社だ」
「社員はみんな日本人か?」
これでは、まるで尋問です。しかし、半年間イライラしながら通った中国語教室と美人教師のおかげで、多少中国語が理解できるようになっていた私は、「尋問」に積極的に答えようとしていました。
「ほとんどが台湾人だ」
そして……次の質問は、パターン会話と入門レベルを超えた質問でした。
「なぜ、日本の広告会社が台湾にやってくるんだ?」
もちろん、台湾に日本の広告会社が進出するにはわけがあります。わが社が進出してきたのにもわけがあります。そのわけは私の頭の中に入っています。しかし・・・それを、この好奇心旺盛な店の主人に説明する中国語が出てこないのです。
というよりも、もともと頭の中に入っていないのです。こういう内容の中国語を読んだこともなければ聴いたこともない。もちろん、美人教師にも教わったことがない。
そこでしかたなく、知っている単語と文型を必死に思い出して、表現できる範囲で答えました。
「台湾に来ている日本企業の広告を作るために来ているんだ」
これは、わが社が台湾に進出した理由のほんの一部です。しかし、それ以上の説明を中国語で表現できないのだから仕方ありません。
こうして、主人と私の会話、というより、主人の好奇心に任せた質問と、しどろもどろの私の返答が何分か続きました。
私にしてみれば、料理を味わう余裕もなく、ありったけの中国語の知識で対応した数分間でした。
私にとっては言い足りない会話、主人にとっては聞き足りない会話。
★用足しがすんだところから会話が始まる、コミュニケーションが始まる
食事の注文という用件が終わったところで、話し好きの主人が、用足し会話を超えた会話を私に仕かけてきたわけです。彼は私と「会話」したかったのです。コミュニケーションしたかったのです。たとえ暇つぶしが目的であったとしても。
しかし、私の中国語は、用足しがかろうじてできる程度のものだったために、話は弾まず、私も主人も中途半端な気持ちで話を終えるしかありませんでした。コミュニケーションは成立しなかったのです。
つまり、実用会話とは、用足しのための会話でしかなく、人と人が出会って、互いに関心を持ち、相手が何者か、何をしているのか、どんな理由でそれをしているのか、などのコミュニケーションとは別のものなのです。
実用会話テキストをいくら暗記しても、会話は成立しない。実用会話以外の中国語のインプットが必要なのです。
そして、私は、ふたたび中国語学習の振り出しに戻りました。
★用足し会話を超えるためには、やっぱり本格的に基礎から始めて、中級レベルにゆかなければダメなんだ。
帰国してから私が始めた中国語勉強法は、左記のカテゴリー「入門はNHKラジオ講座で」と「初級レベルの学習法」にある記事をご覧ください。